1ページ目
- 翻 刻
- 現代語訳
「1
犬山伏
シテ次第
◦三ツの山能入かきてなる〳〵行しそかたつとかりそり
シテ
◦是は出羽黒山よりかきての山伏てす。大みねかつらきを
致し、只今本国へ罷下る、先そろう〳〵と参ろう、誠に、
行は、万行とは云共、山伏の行不とわか行は御座ら
ぬ。或時は、野にふし山ふしいはねを枕とし難行
〔欠〕をいたし、云なから其行徳には、下飛鳥をも
い〔欠〕すが山伏の行徳て御座る、屋事の外臥平こた
此取に列ねがてらに屋すなうと存る、
アト
是ははるか迄国の出家て御座る。某未都を見物
致さぬ程に。此度思ひ立。爰からこを見物致さ
うと存る。先そろり〳〵と参う。誠に。出家ほと楽
なものは御座らぬ。何方へ参つても。皆人の施(ルビ:ふとのしと?)を
被成る〳〵に依之。中〳〵面白ひ事て御座る。
「1
犬山伏
(シテ次第)
「三つの山を越え、険しい道を進みながら、修行をしている。」
(シテ)
「私は出羽の羽黒山から来た山伏だ。大峰の葛城山で修行を終え、今まさに故郷へ帰るところだ。まずはゆっくりと歩もう。」
「誠に、修行にはあらゆる種類があるとはいえ、山伏の修行に勝るものはない。時には野に伏し、山に伏し、岩を枕にして難行苦行を重ねる。そうした修行を続けながらも、その行の功徳によっては、鳥のように空を飛ぶことさえできるという。それこそが山伏の修行の功徳である。」
「しかし、実際のところ、宿を探すのも大変なことである。ともあれ、しばらく歩みを進めるとしよう。」
(アト)
「これは遠い国から来た修行者のようだな。私はまだ都を見物したことがないので、今回こそは都見物をしようと思っている。」
「さて、ゆっくりと進もう。」
「本当に、出家というのは楽なものだ。どこへ行っても、人々が食べ物を施してくれるのだから。そのおかげで、なかなか面白い旅になりそうだ。」
